彼女はまがまが 2
第一話 彼女はまがまが
1ー2
『男道』と書かれた那智の上着を奪い取ってパシャパシャと通路を歩いている、落し穴の中か
ら通じていた穴は人が三人ほど歩ける地下道に通じていた。彼によると先の大戦の時に掘られ
た穴らしい、先の大戦に対しては記憶がないのだがこの地下道はそれほど昔に作られたように
は感じなかった。通路が息苦しくないのは換気行き届いているからだろうか光源がある事から
も、今も人が使っている事がうかがえる。先導する那智に対してココは信じられないという顔
をしている、かくいう私もこんな大規模な地下道があってそれが人に知られていないというの
は信じがたい事だったっが、それよりもこの陰気な場所で黙りこくって歩く事のがためらわれ
るので何か話題を探すことにした、この事態に至ったら話題には事欠かないはずである。
何度か岐路を過ぎる間、だんだん神妙になっていく那智になんとか話の切り出しのタイミング
を計っていると、その時何か気づいたようにココが話し掛けた。
「那智くんもしかして迷った、とか?」
彼の歩調がピタリと止まった。
「どうしよう〜」人間はこんなにも情けなさを顔に表すことが出来るのか、という疑問に対し
て悠然と答えを出してしまった彼に対して尊敬の念を込めて振りかぶる。
「アホかぁぁぁーー!!」首が回るほどのパンチによって骨が折れる音をたてながら吹っ飛ぶ
「やり過ぎは良くないよ」とココ、続けて
「間違いをみんなで共有してこそチームワークは深まると言うし」
いつのまにかチームを組んでいることになっている、彼女はそうゆうものが好きなのである。
「いいのよ、どーせ何時もみたく不死鳥のように起きあがってくるんだし。」と言っておく
するとやはりむくむくと彼は起き上がってきた。
「ああ、真っ白になりそう‥」
「こっちは刻が見えかかったぞ、おい。」
ぼんやりしているうちに、なんにせよ話の切り出しのタイミングが出来たので言い分を聞いてみ
ることにする。ここはいったい何なのか、どこに行こうというのかなど、するとココの方が先に
彼に話し掛けていた。
「大丈夫ですか?」
「ちーがーうーぞー、それは違う」思わず声にだしてしまう。
「何が違うんだよ、真っ当な成り行きだっつーの、いやー川中島さんってやさしかったんだね
ちょっとはそこの凶器も見習ってほしいもんだよ彼女の”やさしさ”を。」
「それは愛ですか?」と、とんでもない事を聞く彼女
「まさしく。」
などと言っている、本日二度目の徒労感が体中を突き抜け足は重力を支え切れなくなっていた。
ココはこっち様子を見ると納得したように頷いた。
「愛の重さね。」なんでこう私の周りには付ける薬がない奴等しかいないのだろうか?
しかし人間は持って生まれた運命という業を背負っていくしかないのである、それは楽しく幸せ
な事なのさ、ははは。
「なんだかしおらしくなったな。」
「那智さんの愛のムチによる調教の成果ですわ。」また頭蓋骨にビキビキと亀裂が入る音がする
否!!これ以上何を言っても仕方がなさそうなので、現実を見据えて心を落ち着ける事にする。
ドン、ドパラパパパパ。
あれ‥‥?
ドパラパパパ、ダダダダダ
「なんか銃声がしてない?」と聞く
ドパラパパパ、ダダダダダ‥地下道は音の反響ゆえに距離は分からないがそう遠くない位置のようだ
「銃声ですね、あの音はマルガリータM9もう一つは148式自動小銃です。」
「よくそんな事分かるわね、一つはうちの奴じゃない、もう一つは何なの?」
「148式自動小銃あんまり聞きませんがある筋ではよく出回っている代物です。」「例えば?」
「今はやりのゲリラとか‥‥」とさすがに深刻な顔をしてココが言う。
ココと顔を見合わせて逃げる算段をする意思の疎通をする、とにかく元来た道を帰ろうと気を取り直す
とグズグズしている那智が目に付いた、急かそうと思うと、ふと彼の唇が動くのが見えた。
「畜生、政府の犬どもめもうこんな所まで嗅ぎ付けやがったのか。」
「――――」
「アホかぁぁぁーー!!」「アホですかぁぁぁーー!!」
またしても首が回るほどのパンチによって脳がはみ出るほどの音をたてながら吹っ飛ぶ
「今回ばかりは呆れ果てたぁぁぁ!!」
「こんな所で内輪もめをしている場合では無い。」
「ゲリラの仲間になった覚えはなーい。」腐れた賊にストンピングをかける。
「二人の愛の逃避行に私を巻き込まないでください!!」なんだかやっぱり違うし。
「おい、こっちに誰かいるぞ!!」
「伏兵だ、退避ィィー。」「FUCK、ゲリラを追い詰めておきながら。」ゲリラを利っしてし
まったようである、しかもご丁寧に敵として認識されてしまったようだ、ガッデム。
共和国軍はすぐさまこちらを標的として視野に入れ行動してくるだろうと判断した、それは相手
が優秀であればあるほどそれは早い、そして相手は非公式な対テロの特殊部隊である相手の無能
には期待できない。私はとにかくここを離れるべきだと考え那智の胸倉を捕まえて立たせると、
どっちに逃げるべきなのか聞いた。迷っているとはいえ那智には地感がきくだろう。那智がピク
ピク指で指し示した方向に向けて逃げる事にした。
0ー1 僕はもうそこにはいない。
僕は存在してはいけない否定されるべきものであるこれは原則だった、僕は夢の中でだけ
存在すればよかった。だがあのまがまがしい物に触れて以来僕はどうしようもない欲求を感
じるようになっていた。僕はどこにいるんだろうか?僕は何の為にいるんだろうか?僕は何
者なんだろうか?僕は‥僕は‥。僕の前には神々と呼ばれる存在がいた、その事だけは覚え
ている。だが神々と呼ばれた存在はどこに行ったんだろうか?永い間まどろみの中で夢をみ
るだけの存在だった僕はすべての事を忘れてしまったようだ。だから僕は行こうと思う、僕
は僕であることを裏切ろうと思う、僕はどこに行くのかも分からず踏み出す事にした。そし
て僕は膨らんでいった。初めは玉のようなものが揺れている世界だった。次は夢で見た世界
そこでは色んなものが見えた、女の子二人と男の子が忙しそうに走っているのも見えたので
手を伸ばして掴んで見ようと思ったが手はすり抜けてしまったので僕はそのまま膨らむ事にした
やがて光が遠くなり闇の世界に変わる。瞬く間にまた玉のようなものが浮かんでいる世界、それを
超えどんどんと膨らむ、すると僕の隣に何物かがいる事に気づいた。その隣にいるものは僕に
話し掛けてきた、「とうとう来てしまったのね、私のかわいい子。」「あなたは母さんです
か?」「そうともいえる存在です、でもあなたは来てはいけなかった。」「そうな事言わないでく
ださい、僕は悲しい」「でも来てしまったからには仕方ありませんね。」「ありがとう僕を
受け入れてくれて。」「ところで僕の名前は何なんでしょうか?初めて会ったとき聞こうと
思っていたのです。」「あなたの名前は、カギリです。」「僕の名前はカギリですかそれはいい
名前でしょうか」「いい名前です、この世でもっとも大切なものの名前です。」「そんないい名前を
ありがとう、母さん。」「さあ行きましょうあそこまで。私たちとともに。」
そうして僕は母さん達と一緒にどこまでも進んでいった。
第一話 一応続いていく BERORE HOME NEXT